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三条市中央商店街にオープン!チーズとワインのセレクトショップ「Moitié-Moitié(モワチエ・モワチエ)」

※本記事は住宅情報WEBマガジン Daily Lives Niigata による取材記事です。


三条市で4代続く酒屋をリニューアル

2022年7月に三条市中央商店街にオープンした「Moitié-Moitié(モワチエ・モワチエ)」。

新潟県内では珍しいナチュラルチーズの専門店で、主にフランス・イタリア・イギリス・スペインなどの“チーズ伝統国”と呼ばれる国々から輸入したチーズを扱っている。

この店のオーナーは、C.P.A認定チーズプロフェッショナル、CAFA®認定フロマジェの資格を持つ岡田知子さん。

「ここは私のひいおじいちゃんの代から続いている酒屋で、私で4代目になります。戦前戦後は栃尾でつくられていた味噌・醤油を運んで販売をしていたそうで、三崎屋という屋号で店を営んでいました。私の両親の代になると、ソムリエ資格を持つ母がワインをメインに扱うようになりました。一方私は昨年の7月までこの建物の2階で料理教室を24年間やっていたんです。

母がワインを扱っており、私が料理の仕事をしていたので、いつか一緒に何かできたらなあと考えていたんです。ただ、親子なのでいつでもできるなと思っていてなかなか実現に至りませんでした。

準備に本腰を入れ始めたのは2年前の2020年です。新型コロナウイルスの感染が広がって料理教室がお休みになった時期に1階の酒屋へ行ってみたら、両親が思いのほか年を取っていることに気付いて。これは時間がないぞ…と思い、慌てて準備を始めました」と岡田さんは話す。

そもそも岡田さんがチーズの勉強を始めたのは、料理教室を始めて20周年を迎えた2017年。新しいスキルを身に付けようと思い、週1回のペースで東京のチーズのスクールに通い始めたという。

そして試験を受け、C.P.A(NPO法人チーズプロフェッショナル協会)認定のチーズプロフェッショナル資格を取得した。

「資格試験に合格することを目標にチーズの勉強を始めたら、チーズの世界にハマってしまいました。ヨーロッパのチーズの歴史は紀元前6,000年といわれており、今も古代ローマ帝国時代と同じ方法で作られているチーズもあります。そして、その土地の風土、気候などいろいろな条件が重なってできたのが今目の前にあるチーズなんです。すごく壮大でロマンがあるなあ…と思うようになりました」。

2018年にチーズプロフェッショナルの資格試験に合格した岡田さんは、実務として使える技術・知識を習得するため、次にCAFA®(一般社団法人 日本チーズアートフロマジェ協会)のフロマジェ資格を取得した。

「フロマジェとはフランス語でチーズに関わる専門職という意味です。チーズを仕入れ、熟成を行い、管理・お手入れをして、お客様に『こんな風に切って食べると美味しいですよ』という説明までを行うためにその勉強をしました。チーズは生きているものなので、劣化させないためのお手入れがとても重要なんですよ」(岡田さん)。

   

目指したのは、ヨーロッパにある街のチーズ屋さん

岡田さんがチーズのお店を始めるために本格的に動き始めたのは2020年の5月頃。新型コロナウイルスの感染拡大が広がり、料理教室を休止していた時期だった。

「飯塚さんに依頼をしたのは、飯塚さんのお話しやすい人柄や、これまで手掛けられた店舗の事例を見ていいなと思ったからです。それから、主人がJCで飯塚さんと一緒だった時期があり、『明瞭にスパスパと応えてくれるし、最善を尽くしてくれる方だよ』と推してくれたことも依頼をする決め手になりました」(岡田さん)。

そうして岡田さんは、「ヨーロッパにあるようなチーズ屋を始めたい」という願望を飯塚さんに伝えて計画を進めていった。

「ヨーロッパでは街にチーズ屋さんが必ずあって、夕飯に食べるチーズをみんなが買いに行きます。そこでお店の人が『今日はどんな料理を作るの?』と聞くと、例えば『カツレツの中にチーズを入れようと思う』とお客さんが答えるんですね。そうすると『じゃあ4人家族だから、このチーズを4切れね』みたいな感じで、チーズをナイフで切って量り売りしてくれるんですよ。あとは、いつ食べるものなのかを聞いて、それに合ったチーズを提案してくれたり、会話をしてチーズを選んでいきます。必ず試食をするのも特徴で、お客さんは味見をして納得したら買って行くんです。

そういう売り方をしたくて、ヨーロッパのチーズ屋さんのように、入ってすぐの場所にショーケースがあるお店にしたいと思いました」と岡田さん。

「岡田さんがイメージしているチーズの専門店に行ったことがなかったんですが、そういうヨーロッパにあるようなチーズ屋さんが東京の三軒茶屋にあると岡田さんに聞き、実際に足を運んでチーズを買って、イメージを体感するところから始めました」と飯塚一樹さんは話す。

  

素材感を大切にしたシックなインテリア

岡田さんが扱おうとしているチーズが、こだわりを持って作られたナチュラルチーズであることから、飯塚さんは建物に使用する素材もフェイク素材ではなく本物であるべきだと考えていた。

(飯塚さんが掲げる20のコンセプトの中に「〇〇風の排除」という項目があり、普段から極力フェイク素材を使わないことを提案している)

そうして外壁には魚沼杉を、

店内の壁や天井には、漆喰やタイル、木毛セメント板を使用した。

「チーズの他にワインも扱うということで、ワインを置く棚は天然のワイン貯蔵庫である洞窟をモチーフにデザインをしました」と飯塚さん。

洞窟の入口のようなスペースに棚や冷蔵庫を納めたデザインがさり気ないアクセントになっているが、階段下の空間(上の写真の右側の部分)をカモフラージュする意図もあるという。

両端の下部に注目すると、壁を垂直に落とすのではなく、あえて内側に巻き込むようにデザインしているのが分かる。細かい部分だが、このこだわりによって、より洞窟らしい造形ができ上がっている。

店内のグレーカラーは岡田さんが元々決めていたベースカラーで、先行して制作をしていたショップカードと同じ色。

ただ、グレーと言っても、木毛セメント板、漆喰、モルタルと、素材ごとに異なる風合いのグレーがある。そのため、同じトーンで統一しながらも決して単調ではないインテリアに仕上がっている。

   

燕三条の金属加工技術を店づくりに生かす

店内奥のテーブルには飾り付けがされており、料理教室時代から岡田さんが季節に合わせてこのようなしつらえをしてきたという。

ちょうど訪れた11月はクリスマスを迎える冬の装飾がなされていた。

テーブルは三条市内のJR帯織駅にあるものづくり拠点「EkiLab」で製作されたもので、脚は金属、天板はレジカウンターと同じモールテックスで仕上げられている。

このような燕三条地域の技術を生かした家づくり・店づくりも、飯塚さんが大事にしているコンセプトの一つで、地元の技術を地域の財産と捉え「地財地建」と呼んでいる。

このテーブル席を活用し、今後チーズに関するミニセミナーやワークショップを開催する予定なのだそう。

ちなみにベンチはキャスター付きで動かしやすく、内部は収納スペースとしても活用できる。

先述のEkiLabの金属加工技術は、室内サインやレジカウンターの小物置きなどの造作にも使われている。

   

オープンキッチンのようなLAB

チーズを量り売りするという特性から、お店の奥にはチーズをカットするための6畳程のスペース「LAB(ラボ)」も設けられた。

「お客さんの目線が自ずと店の奥へ行くように、カットをするスペースに大きなガラス窓を設けています」と飯塚さん。

チーズの種類に合わせて器具を使い分け、カットする様子を見られるのもこのお店ならではの体験となる。

  

チーズとの一期一会が生まれる場所

岡田さんにナチュラルチーズをいくつか試食させて頂いた。

上の写真は「COMTE(コンテ)」という熟成ハードチーズ。フランス東部のジュラ山脈一帯で、1000年以上も前から作り続けられているものだ。添加物を一切使わず、作られた季節や地域、職人技、熟成期間などによって、ひとつひとつ異なる個性を持つという。ワインの世界でよく耳にする「テロワール(=土壌、気候など、味や性質を左右する環境要因)」である。

皿に盛られた3種類のコンテは、熟成期間や搾乳する季節が異なるもので、食べ比べてみると、風味や食感、塩味などが随分と違い、同じ種類のチーズとは思えない程。ナッツやドライフルーツと一緒に食べると、さらに幅広い味わいを楽しむことができた。さらにコーヒーとの相性もいいのだそう。

有資格者である岡田さんから専門的な説明を聞いた上で食べるチーズは、より味わい深く感じられる。

まさに「会話を大切にしたい」という岡田さんの想いと、店舗のつくりが見事に合致していることを実感できる。

モワチエ・モワチエでは生ハムの量り売りもしており、スライスし立てのものを買える。岡田さんがかつて何度も足を運んだフランス・バスク地方のバスク豚など、特に思い入れの強い生ハムもラインナップしている。

ワインはフランスやイタリアのものが中心で、珍しい産地としてはジョージアやスロベニアのナチュラルワインも扱う。チーズ専門店らしくチーズに合うワインが選ばれており、2,000~3,000円台の家庭で楽しみやすい価格帯のワインが多い。

岡田さんがセレクトしたチーズ・生ハム・ワイン。それぞれの説明を詳しく聞きながら組み合わせて購入するのも、ここでの買い物の楽しみになりそうだ。

  

旬の新潟食材とチーズの組み合わせを提案

オープンして数カ月。ナチュラルチーズに関心がある幅広い世代が訪れる店には、県央地域在住者以外にも新潟市や長岡市、県外からの旅行者も立ち寄るという。

「私は24年間料理の仕事をやってきたので、新潟の旬の食材とチーズの組み合わせを提案したり、一緒に販売していくのが私らしいやり方かなと考えています。

チーズはカットしてそのままテーブルチーズとして食べてももちろん美味しいんですけど、お料理に入れてもすごく美味しくなるんですよ。

料理教室時代に知り合った生産者さんがいらっしゃいますので、ル・レクチェや桃、イチジクなどとの組み合わせを提案したり、これからの時季でしたらカブにチーズをかけて焼く料理など、構えずに作れる簡単な料理を伝えていきたいですね」と岡田さん。

そんな料理のアイデアはモワチエ・モワチエのインスタグラム@moitie.moitie.fromageでも紹介している。

料理教室を十分にやり切ったという岡田さんにとって、ナチュラルチーズの魅力を伝えていくことが新しい目標だという。

さまざまなバックボーンを持つナチュラルチーズとの出会いが、人生を一層豊かで楽しいものにしてくれそうだ。


チーズとワインのセレクトショップ Moitié-Moitié(モワチエ・モワチエ)
新潟県三条市本町1-3-20
TEL:0256-32-1116
営業時間:11:00~18:00(火水木日曜)、11:00~19:00(金土曜)
定休日:月曜・第2日曜
インスタグラム:@moitie.moitie.fromage

設計/株式会社イイヅカカズキ建築事務所
写真・文/Daily Lives Niigata 鈴木亮平