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社員食堂「MITSUMI kitchen」
ガソリンスタンドを社員食堂にリノベーション。
社内のコミュニケーションを促す場に

※本記事は住宅情報WEBマガジン Daily Lives Niigata による取材記事です。


快適に昼休みを過ごせる社員食堂を

三条市泉新田に本社を置く株式会社みつみ環境は、昭和35年に創業した清掃会社。産業廃棄物の収集運搬や、浄化槽の清掃、リフォーム事業などを行っている。

そんな同社が本社近くにあるガソリンスタンドを購入したのは10年程前のことで、その後はその敷地を社員の駐車スペースとして活用していたという。

一方、ガソリンスタンドのオフィス部分は空き家状態になっていたが、2022年に大掛かりなリノベーション工事を実施。そして、同年夏に社員食堂「MITSUMI kitchen」が完成した。

その経緯をみつみ環境の代表・佐藤雅司さんに伺った。

「当社は社員が30人くらいいるのですが、休憩室は15畳程度しかなくて。お昼に全員がそこで休憩することができなかったんです。敷地内にある6畳程度のユニットハウスを使ったりもしていましたが、寒い冬に窓を閉めてストーブを焚いているのは衛生面でよくありません。また、現場近くの公園やコンビニでちゃちゃっと食事を済ませる社員も多かったです。そこで、みんながゆっくりお昼ごはんを食べられる環境を整えて上げたいと思ったんです。僕が社員だったらお昼の1時間を快適な空間で過ごしたいですし、それが仕事のモチベーションにも繋がっていくと思っていましたので」と佐藤さん。

そこで、青年会議所で知り合い、自邸の設計も依頼した飯塚一樹さんにリノベーションの設計・デザインを依頼した。

「佐藤さんからの要望は、おしゃれなカフェのような空間にして欲しいということ。社員食堂をつくる理由も聞いた上で、どのような空間にしていくかを考えていきました」と飯塚さんは話す。

  

杉板とセメント板の壁でイメージを刷新

こちらがMITSUMI kitchenの外観。

BEFORE

外に面した鉄骨や折板屋根はそのままだが、建物部分の外壁は魚沼杉とセメント由来のSOLIDO(ソリド)を組み合わせ、シャープでありながらも温かみを感じさせる印象に刷新した。

ガソリンスタンドならではの大屋根が雨を遮ってくれるので、雨天時の出入りもスムーズ。大きな屋根は日中の強い日差しをやわらげる役割も担っている。

建物の入口は左手のドアで、そこを開けるとかつてガソリンスタンドだった場所とは思えない洗練された空間が広がっていた。

  

ラワン合板とモイスが融合する内部空間

高天井の空間にいくつものLED電球が吊り下げられたインテリアは、外国人旅行者が集うしゃれたホステルのラウンジのようだ。

内部の個室はトイレだけで、それ以外は大きなワンルーム。既存の天井を解体し、このような開放的な空間を実現した。

CGパース

グレーの壁や天井はモイス、壁やテーブルの木部はラワン合板、キッチンと作業台はモールテックス。飯塚さんが大事にしている「○○風の排除」という考え方に基づいた素材選定で、異素材が調和するようにリアルなCGパースで綿密なミュレーションを行ったという。

CGパース

「ラワン合板の壁を不規則な多角形にしているのは、ラワン合板の目地と開口部のズレを感じさせないようにするためです。なおかつ、明るい色味の合板と暗い色味の合板をバランスよく組み合わせることで、四角錐のように少し立体的に見えるようにしています」と飯塚さん。

その濃淡は見る角度によって異なり、さまざまな表情を見せてくれる。

BEFORE

「窓側に沿って白い壁を設けていますが、これは落ち着いた雰囲気をつくるためのものです。敷地内が駐車スペースになっているため、そのままだと止めてある車両が見え過ぎてしまいますし、ガラス面が多いので日差しもかなり強いんですね。だからと言って、あまり閉じてしまうと狭く感じてしまいますので、ところどころに四角い窓を切って、そこから視線が抜けるようにしています。また、大きくL字にベンチが組まれているのは、単体では自立できないこの壁を支えるためでもあるんですよ」(飯塚さん)。

BEFORE

食堂内のテーブルは金属製の脚にラワン合板を組み合わせたもので、こちらは燕三条地域の工場で製作。

地元燕三条のものづくりの技術を建築に生かそうと考える飯塚さんの思想が反映されたテーブルだ。空間全体のトーンが整うように、椅子やサッシと同様に金属部分を黒色で仕上げている。

  

厨房はモノトーンでシックに

食堂の奥に設けられた厨房は黒が基調。天井高も抑えられており、食堂と一続きでありながらも異なる空間であることが一目瞭然となるデザインだ。

ここで目を引くのが大きな可動式の作業台。左官職人がモールテックスで仕上げたもので、スポットライトがその質感を際立たせている。広い天板は調理や配膳がしやすく、内部の棚にはたっぷりと調理道具などを格納できる。

壁付けの長いキッチンもモールテックス仕上げのオーダーメード。食堂から丸見えになっていても違和感がない、美しいデザインだ。

細かい間仕切りをつくらずに、家を一つの箱と捉えるのが飯塚さんの住宅建築のコンセプトで、「ONE-BOX FOR ONE FAMILY.」というキャッチコピーを掲げている。

空間に広がりを感じさせ、コミュニケーションを促すこの考え方は、食堂と厨房を一体にするデザインにも現れている。

水や油が跳ねる部分の壁はセメントを主原料としたフレキシブルボード。それ以外の壁は黒く塗装したラーチ合板で仕上げている。

電子レンジや冷蔵庫を納めるスペースも考えてられているため、家電の側面が目立たずにすっきりとしている。

また、作業台のキッチン側にはボウルや鍋などの調理道具がぎっしり詰まっているが、食堂側からは死角になる。それでいて調理時には取り出しやすく片付けやすい。美観と使いやすさのどちらも犠牲にしないきめ細やかな設計だ。

  

グレーカラーでまとめたトイレと洗面スペース

厨房の隣の最も奥まった場所は、洗面スペースとトイレ。

2つの洗面ボウルがある手洗いスペースと、2つのトイレが設けられており、これらの空間はグレーカラーが基調。食堂や厨房との統一感を持たせつつ、別な空間であることを感じさせる。

  

畳でくつろげるロフトスペースも

再び入口前に戻り、ラワン合板で組まれた箱階段を上がると、ロフトのような2階スペースにたどり着く。

天井が低い空間ではあるが、畳敷きのため、靴を脱いでごろりと横になって過ごせる。造作のローカウンターで飲食をすることも可能だ。

カウンターはコンセント付きなので、スマホを充電したりノートパソコンで作業をするのにも都合がいい。

ここから下のフロア全体を見渡すこともできる。

  

毎週金曜に会長手作りのランチを提供

「社員食堂では昼休憩の時にお弁当を食べてくつろいでもらうだけでなく、会社として食事の提供もしたいと思っていました。今は毎週金曜日を会長とパートさんがお昼ごはんを作って提供する日にしています。みんなから何を食べたいかリクエストを募りメニューを考えるんですよ。会社支給なので、社員のみんなにとっては無料です。

僕も一度ここで30人分の料理を作ったことがあります。すごく大変でしたが社員のみんなに喜んでもらえたようで良かったです。

また、社員同士が仲良くコミュニケーションを取る機会を増やして、社内の雰囲気をより明るくしていきたいという意図もありました。コロナ禍になってから飲み会もなかなかできず、コミュニケーションを取る機会が減っていましたので。それで、金曜日のお昼には店舗(三条市荒町にある『住まいるみつみ』)で働く社員にもここに来てもらって一緒に食事をしています。やはり社員同士のコミュニケーションが活発だと、仕事で何かをお願いする時もスムーズになりますし、会社全体の生産性も向上するんですよ」と佐藤さん。

そう話す背景には、15年前に佐藤さんが取締役として入社した時の社内の雰囲気が今と比べて良いものではなかったからだという。

「僕がみつみ環境に入った2007年は、あいさつがなかったり、社員同士で仕事をお願いしづらかったり、ギスギスした空気が漂っていました。その後少しずつ若い人に入って頂きながら社内環境を整えていったんです。続けているうちに、いつの間にか若い人たちが集まる会社になり、社員の平均年齢も34歳にまで下がりました。当社に興味を持って面接に来て頂いた方に『この会社雰囲気がいいな、明るいな』と感じて頂くためにも、引き続き環境づくりに力を入れていきたいですね」(佐藤さん)。

社員の幸福感の向上や、明るく温かいムードづくりを目的にした社員食堂「MITSUMI kitchen」。これまでになかった空間は新しい会社のイメージを発信する場にもなっており、例えば採用活動にも効果をもたらすことが期待されている。

また、仕事を遂行するのに必要なコミュニケーションをリモートで取れる今、人と人がリアルな場でオープンな会話ができることがオフィスの価値である、とする考え方がある。

「MITSUMI kitchen」もリアルなコミュニケーションのための場であり、リラックスした雰囲気が漂う空間で、社員同士が食事や談笑を楽しみながら親睦を深めることができる。

そんな「社員食堂」は、多くの業種で企業の課題解決や成長戦略の手段になり得るのもしれない。


株式会社みつみ環境
新潟県三条市泉新田60
インスタグラム:@mitsumi.co.ltd

設計/株式会社イイヅカカズキ建築事務所
写真・文/Daily Lives Niigata 鈴木亮平