interview

代表自邸「裸足の家」

株式会社イイヅカカズキ建築事務所の代表である私(飯塚一樹)が2015年に三条市内に建築した自邸の紹介をします。

この家を設計するにあたり、自邸だからできる実験的な取り組みを多く行いました。実際に住むことで検証できたことや体感できたことがたくさんあり、それが現在の設計に大いに役立っています。

家を建てた経緯や土地選び、設計意図や住み心地、実際に暮らしてみて良かったこと、逆にこうすれば良かったと思ったことなどを、施主目線を交えながら詳しくご紹介します。


概要

67坪の土地に立つ延床面積35坪(1階19坪、2階16坪)の家で、間口6.25間×奥行3間のシンプルな長方形の総2階。場所は三条市の街なかで、周辺には住宅がびっしりと立ち並び、すぐそばにはJR弥彦線(高架線)が走っています。

南側の庭へと開いた構成で、冬にエアコン1台で家中を快適温度に保てる断熱性能を持たせ、太陽光発電システムを利用したZEH(ゼロエネルギーハウス)としています。

家の中心にキッチンを置き、それをコア(設備機器を家の中心に固めて、それを囲む耐力壁を重要な構造として活用すること)にして、ぐるりと一周できるドアが少ない1階。

1階と2階の温度ムラをなくすために設けた大きな吹き抜け。キャンプやバーベキューが楽しめる芝庭や、リビングからスムーズに庭へと出られる動線などが特徴です。


建築のきっかけ

私が新築をした2015年まで、私たち家族は、近くにある私の実家で両親と同居をしていました。子どもは3人。当時、私は38歳で、上の子が小学校3年生、真ん中の子と下の子はまだ幼児でした。

実家で私たち家族5人が生活をしていたのは、寝室と6畳の居間の2室のみで、子どもたちが思い切り遊べないことや、子育て真っ最中の私たちと両親の生活リズムが違うことなどが課題でした。

そんな理由から妻と新築の計画を進めていましたが、ちょうど実家のそばで駐車場として借りていた土地の地主さんから、その土地を買わないか?という打診があったんです。

当時は妻が看護師として働いており夜勤などもあったため、両親に子どもたちを預ける必要があり、頼りやすいその土地を購入することにしました。


外観

外壁は板張りにしようか、ガルバリウム鋼板にしようかで悩んでいましたが、ガルバリウム鋼板を選びました。(ただ、今であったら杉板で仕上げているかもしれません。)

三条市の街なかはトタンの外壁を使った古い建物が多くありますので、茶色いガルバリウム鋼板をベースにすることで周囲の街並みになじむようにしました。

2015年当時の樹脂サッシは黒色がなかったこともあり、茶色いサッシとの調和を考えたことも、茶系のガルバリウム鋼板を選んだ理由です。

南側に迫り出した庇は1.8mありますが、これによって夏の厳しい日差しを遮り、冬の温かな日差しは1階の奥まで入るように計画をしました。長い庇のおかげで、雨の日に窓を開けておけるのも特徴です。

北側の庇はその半分の90cmを出していますが、こちらは雨除けと目隠しの役割があり、その庇の下をエアコンの室外機を置くスペースにしています。

南側には窓を大きく設けていますが、それ以外の窓は小さくすることで熱損失を抑えています。

家の前にシラカシの木を植えていますが、これは、通りからの視線を遮る役割を果たします。常緑のシラカシが、リビングが丸見えになるのを防いでくれます。

正面にはデッキを設けていますが、ここに椅子を出してコーヒーを飲みながらゆっくり過ごそうと計画したものです。

実際にはあまりそういう時間を過ごすことは少ないですが、デッキや庭を使って両親や近所の友人家族とバーベキューをして過ごしたりと、交流の場として使っています。


1階-コアを中心に据えたプラン

玄関ドアを開けると土間部分が横に伸びており、まっすぐ進むとダイニング、右へ進むとリビングに繋がります。

玄関土間は奥に長いよりも、横に広い方が使い勝手がいいと考えており、このような形にしました。

台風が来た時に、植物や自転車を土間部分に入れるのもスムーズです。

建物の西端がダイニング、中央にキッチン、東側にリビングを配しています。

最初は外が眺められるオープンキッチンを考えていましたが、当時の妻の要望から、料理に集中しやすい壁付けのキッチンにしました。

キッチンとその裏側の収納部分を含めた4畳分がコアとなり、それにより梁の大きさを抑えつつ耐震等級は最高等級の3をクリア。階高も抑えられています。

このコア部分の壁は木を鎧張りにしていますが、このコアが木の幹のようになるといいなとイメージしてこのような仕上げにしました。

(ただ、今だったら鎧張りではなく羽目板にするか、ラワン合板で仕上げるかもしれません。)

ダイニングからキッチン、リビングへと続く一直線の壁側に棚が並べられていますが、これは全て無印良品のユニットシェルフです。

あえて造作にはせずに、生活の変化に合わせて棚を足したり引いたりできるようにしています。

実際に、住み始めてから子どもたち用に棚を追加しています。子どもたちが独立したら棚を減らすかもしれません。造り付けにしないことで可変性を持たせています。

ダイニングと逆サイドにリビングを配置していますが、これは「テレビを見る場所と、食事の場所を分けたい」という妻の希望から、このような配置にしています。

床は杉板を使っていますが、床は家で一番肌に触れる場所ですから、裸足で過ごす時に柔らかくて肌触りが良く、冬でもヒンヤリしない素材にしたかったからです。

杉は柔らかい反面、傷が付きやすいですが、実際に杉の床で暮らしてみたらどうなるんだろう?どう感じるんだろう?というのを試してみたいとも思っていました。

実際に肌触りが良くて温かくて気持ちいいですが、ちょっと物を落とすだけでぼこぼこに傷が付きますし、5年が経過した今でも僕はそこは気になっています。

特にソファ周りの床がぼこぼこなんですが、よくテレビのリモコンを床に落とすからです。

今だったらチークやオークなどの堅い木を選ぶかもしれません。

ちなみに妻は、床の傷を最初は気にしていましたが、今はもう気にならないそうです。


煙突効果で温度ムラのない家

階段がある南側は6畳分の吹き抜けにしていますが、それは冬に1階のエアコンで温めた空気を2階に送り、逆に夏は2階のエアコンで冷やした空気を1階に送ることで、全館冷暖房を実現できると考えたからです。

それまでも吹き抜けのある家を設計していたんですが、確証を持っておすすめできないでいました。

それで、自宅に吹き抜けを設けることで、計算通りに暖気や冷気が隅々まで行き渡るかを確認してみたいと思ったんです。

実際に、冬場は吹き抜けの煙突効果で、エアコンで温められた空気は2階へ行き渡ります。玄関の一部は空気が上がりやすいようにスノコの天井にしており、その上を物干しスペースにしていますが、冬場はそこに手をかざすと上昇する風が感じられるくらい、自然に暖気が1階から上がってきており、冬場の方が洗濯物が早く乾きます。


2階-フリースペースを中心にした空間

2階はフリースペースを中心に、寝室、ウォークインクローゼット、個室、トイレ、物干しスペースを配しています。

4.5畳の子ども部屋を3部屋取れるようにしており、新築時に小学校3年生だった長女の部屋だけを個室に。

下の2人の子ども部屋は、必要になったら仕切れるようにしていますが、今は広いフリースペースとして使っています。

子どもの友達が遊びに来ると、このフリースペースに布団を並べて4~5人で寝たりしています。

2階で子どもたちが騒いで遊んでいる時、僕たち大人は1階に居るんですが、うるさすぎることもなく、声や気配を感じられるちょうどいい距離感になっています。

また、2階の天井には2つの天窓を設けていますが、この天窓は熱を逃がすのに役立っています。

1階の窓から入った風が吹き抜けを通って天窓から外へと流れるため、暑い時期に室温を2度くらい下げることができるんです。


反省点①-ロフトは不要

ここからは、イメージ通りに活用できなかった空間、計算通りにいかなかったことをいくつかご紹介します。1つ目はロフトです。

2階の子ども部屋にロフトを付けましたが、ロフトに布団を敷いて寝ているのは長女だけで、下の2人の子たちはロフトを活用していません。

また、ロフトは夏も冬も温度が高くなり過ぎるので、長女もそんな時期はロフトから降りて下で寝ています。

ロフトを付けることで家の容積が大きくなり、冷暖房効率が落ちますし、わざわざコストをかけて付けることはないのかなと思いました。

もしロフトを付けるとしたら、熱を逃がせるように、そこに高窓をつくるといいかもしれません。

この家では天窓を設けましたが、普通の窓よりも漏水リスクが高い天窓ではなく、ロフトに高窓を付けるという方法でも良かったかな…とも思います。


反省点②-第3種換気システム

外気を直接吸気口から室内に取り込む第3種換気方式と、吸気・排気ともに換気扇を使い熱交換システムを備えた第1種換気方式がありますが、我が家では子どもがアレルギーを持っていたため、ダクトを通さずに新鮮な空気を直接取り込める第3種換気方式を採用しました。

しかし、この方法だと冬場は外の冷たい空気を直接室内に取り込んでしまうため、冬は吸気口から入った冷気がそのまま室内に入ってきます。

ちょうど寝室で僕が寝ている頭の近くが冷気の通り道になっているんですが、これがとても寒く感じます。

この経験があるため、今は第1種換気方式を推奨しています。


反省点③-エアコンの位置

1階のエアコンはリビングの北側に設置しており、エアコンから噴き出す暖気がキッチン、ダイニングを経由して、玄関側からぐるりと循環し、吹き抜けから2階へと上がっていくことをイメージしていました。

しかし、実際に暮らしてみると、南側に連続する掃き出し窓が壁と比べて断熱性能が落ちるため、そこでコールドドラフト(冬場に窓ガラスに触れた冷たい空気が下へと流れ落ち、不快な冷気を感じさせること)が発生したり、気密が弱い掃き出し窓から若干の隙間風を感じたりしています。

エアコンの位置はリビングの北側ではなく、南側に設置をすれば窓の表面を温めて不快なコールドドラフトを抑えられたのではないか?と住み始めてから思いました。

この経験のおかげで、今は設計時に最適なエアコンの設置位置を見つけられるようになっています。


反省点④-新潟県で太陽光発電は不向き

ZEH(ゼロエネルギーハウス)への補助金が出るタイミングでZEH仕様の家を建てました。ZEHとは、分かりやすく言うと、1年間で使用する電力量を太陽光発電でまかなうことができる家のこと。

環境に優しいのはもちろん、使用する電力量よりも多くの電気を売電できれば経済的なメリットも得られる仕組みです。

しかし、実際に使ってみると一番電気を使う12月~3月上旬が新潟では日照がほとんど望めないため、冬の間は1カ月で800円程度しか売電できないんです。

ZEHの補助金を160万円もらいましたが、太陽光発電に250万円をかけていますので、新潟では元を取るのが難しいと身をもって感じました。

お客様の家では実験しにくいことをいくつも試し、それによりうまくいったこと、いかなかったことの両方がありますが、戸やドアが少ない家はストレスなく過ごすことができ、温熱環境もいい家になりました。

この家は予約制モデルハウスとしてご覧頂いておりますので、ぜひ見学希望の方はお気軽にお問い合わせください。

2015年に建築した住宅が時を経てどのように変化をしているのかもご参考にして頂けると思います。

【仕様】
延床面積 116.75㎡(35.32坪)、1F 62.10㎡(18.79坪)、2F 54.65㎡(16.53坪)
ゼロエネルギー推進化住宅
長期優良住宅
耐震等級3
UA値(断熱性能)=0.43
Q値(断熱性能)=1.8
C値(気密性能)=0.12
太陽光発電システム5.4kW搭載