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プライベートバルコニーで、極上の家族時間を

※本記事は住宅情報WEBマガジン Daily Lives Niigata による取材記事です。


装飾を抑えたシンプル&シックな外観

三条市の中でも商業施設が集まる第二産業道路近くの土地を買い、この春に新築をしたSさんご夫婦。

黒い外壁で覆われた建物は、小さなボリュームの箱(ガレージ)と、大きなボリュームの箱(住居)が組み合わせられた構成で、2つの箱の間にはトンネルのように抜ける空間が設けられている。

1階の窓は少なめ。2階も高い位置に窓が配されており、しっかりとプライバシーが守られているのが特徴だ。

ガレージは車2台が余裕で納まる広さで、中には夫婦の愛車が仲良く並ぶ。その後ろには、お子様のバッテリーカーがかわいらしく置かれている。

ガレージは車2台が余裕で納まる広さで、中には夫婦の愛車が仲良く並ぶ。その後ろには、お子様のバッテリーカーがかわいらしく置かれている。ゆったりとしたポーチの足元はタイル張り。壁にもタイルが張られているが、こちらは荒々しい質感で強いアクセントになっている。

ドアを開けると、正面の吹き抜けから光が注ぐ明るい玄関ホールが広がった。

赤みを帯びたチークの床にセメント板の壁。吹き抜けの上へと白いスチール階段が伸びている。

装飾を抑えてシンプルにまとめることで、一つ一つの素材感が際立つ上品な空間が完成していた。


プライベートバルコニーがゆとりを生み出す

階段を上がった先は水平方向に伸びやかに広がるLDKで、ここがS邸の中心。

さまざまな方向から光が入るLDKは、外観から想像するよりもかなり明るいことに驚かされる。

壁が少ない空間は視線がよく抜けるため、実面積以上に開放感が得られるのが特徴だ。

このS邸におけるこだわりの空間が、リビングに面したバルコニー。

このバルコニーのユニークさは、壁で囲うことで外からの視線をシャットアウトし、完全なるプライベート空間にしていることにある。

2階リビング×プライベートバルコニー。この組み合わせにより、外からの目を一切気にすることなく、開放的に暮らせる気持ちいいリビングができ上がった。

「2階リビングのメリットは、1階と比較して耐力壁の数を減らせることにあります。それによってこのような開放的な空間を実現しています」と、設計を行ったイイヅカカズキ建築事務所の代表・飯塚一樹さんは話す。

「バルコニーはあえてリビングの床よりも一段上げていますが、そうすることで、バルコニーが独立した別の空間であることを際立たせています。壁で囲ったのは、南隣に今後家が立つ可能性が高いからです。インナーバルコニーにすることで落ち着いて過ごせる空間ができると考えました」と続けた。

「気候のいい時季は、風呂上がりにこのバルコニーでよく涼みながら過ごしています。お酒が好きなので、ここにイスを置いて飲んだり。特に外から見られるわけでもないので、上半身裸で過ごせるのもいいですね」とご主人。

子どもたちもこのバルコニーがお気に入りで、ラジコンやスケボーをしたり、縄跳びやスイングスキップをしたりして遊んでいるという。

「すぐ隣にお風呂があるので、雨の日でも子どもたちはバルコニーに出て遊び、そのままお風呂に入ったりしています。バルコニーで遊ぶ子どもたちを、ダイニングでお茶をしながら見守れるのもいいですね」と奥様は微笑む。

この家が完成しSさん家族が住み始めたのは今年の4月。ちょうど新型コロナウイルスの影響で緊急事態宣言が出され、外出自粛が呼びかけられた時期だった。

「そんな時も、このバルコニーは周囲の目を気にすることなく、同じ三条市内に住む主人の両親を呼んでバーベキューを楽しむことができました。ベランダに電源があるので、ホットプレートを使ってお肉や野菜を焼き、ワイヤレススピーカーで音楽を聞きながら快適に過ごすことができましたね。家に居ることがストレスになるのではなく、とても幸せな気持ちで過ごすことができました」(奥様)。


料理の時間が楽しくなる大型キッチン

2階のキッチンからは、広いリビングとバルコニーを見渡すことができる。

置かれているのはトーヨーキッチンスタイル社のハイエンドモデル「INO」で、面材に使われている天然石は見た目も手触りもいい。

横幅のあるキッチンは、中央にIHクッキングヒーターが配され、端にシンク、その逆サイドはダイニングテーブルになっている。

イタリア・カルテル社のスマトリックスツールや、オランダ・モーイ社の照明コッテリアが豪華なステンレスキッチンによく似合う。

「ここ何年もキッチンに立つということがほとんどなかったんですが、この家に住んでから料理をするようになりましたね。ここでお酒を飲みながら料理をする時間が好きです」とご主人。

ご主人が料理を作り、それを2人の息子さんたちが手伝うこともあるという。

「男の子たちが楽しそうに料理をしているのを見るとうれしい気持ちになりますね。私はちょっと楽をさせてもらうようになりました」と奥様。

キッチンの後ろはコーナー窓が続いており、天井から1.1mの高さで統一されているが、それによりキッチン全体が明るく保たれている。

「窓が高い位置にあるのでブラインドを閉めずに過ごすことができますし、雨の日でも明るいんですよ。正面のバルコニーからも光がたっぷり入ってきますし」(奥様)。

ダイニングテーブルはカルテル社のフォー190、椅子は同じくカルテル社のピウマ。

夫婦で東京出張に行った際にカルテル東京で製品を見ながら選んでいったという。

夜はこちらのフォー190で食事をし、慌ただしい朝はキッチンで済ませるという使い分けがなされている。

キッチン側のテーブルは息子さんたちの勉強スペースにもなり、食事の支度をしながら見守ることができる。


裏動線が快適な暮らしを支えてくれる

すっきりとしたLDKを実現できているが、それには裏動線が大きな役割を果たしている。

建物西側が細長いバックヤードのような空間になっており、キッチンの隣にあるウォークインクローゼットから、トイレ、物干し兼洗面スペース、脱衣室、浴室と、収納や水回りが並ぶ。

1階にもウォークインクローゼットがあるが、2階の物干しスペースに近く使いやすい位置にも、普段使いの服を収納できるウォークインクローゼットが設けられている。

そこから廊下を進むとトイレがあり、さらに進んだ先が約5畳の洗面スペース。

ダブルボウルの洗面台は2人で同時に並んで使うこともできるし、片方のボウルで汚れた服の漂白をするという使い方もできる。

そして、その後ろは物干しスペースになっており、空間の色と同化する2本の白い物干しパイプに洗濯物をたっぷりと干すことができる。

「物干しは内干しを基本とする」というのが飯塚さんの考え方。天候を気にすることなく洗濯物が干せるし、エアコンで乾燥しがちな室内の湿度調整にも役に立つからだ。

その先に脱衣室があり、最も奥にあるのが1.5坪タイプの広い浴室。

広めにつくられたバスタブはゆったりと湯に浸かることができ、バルコニーに面しているため露天風呂のような開放感が味わえる。

「お風呂に入っている時、子どもたちは裸のまま窓を開けてバルコニーに出て行って遊んだりもします」とご主人。

バルコニーに面した浴室は、ただ体を洗い湯に浸かるだけでなく、1日の終わりの楽しみとなるようなリラックスムードにあふれている。


回遊できる動線は1階にも

2階で暮らしのほとんどが完結するS邸。

1階には子ども部屋、ウォークインクローゼット、寝室、ご主人の書斎などが配されており、それらの空間をぐるりと回遊できるような動線がつくられている。

玄関のそばには9畳の子ども部屋があるが、天井中央のレールに間仕切りを付けて2部屋に仕切ることもできる。

壁の近くの天井には洋服を掛けるハンガーパイプが取り付けてあるが、今は洗濯をしたシーツなどの大きなものを干すのに重宝しているそう。

そこから廊下を挟んで向かいにある、広いウォークインクローゼットへと入ることができる。

中央の通路の両サイドに収納スペースがあり、上下2段のハンガーパイプと枕棚にたっぷりと服やバッグが収納されている。スーツケースなどのかさばる物もこちらに納められている。

クローゼットの奥に見える格子の中にはエアコンが隠されているが、このエアコンで温められた空気が床下を通り、吹き抜けから2階へと上がっていくように流れが計算されている。

子ども部屋の天井のファンから2階の床下へと暖気を送ることもできたりと、温度ムラをつくらない空調計画が緻密に考えられているのも、飯塚さんの設計の特徴だ。


仮眠スペースを備えた書斎

ウォークインクローゼットは、廊下から入り、その先の寝室へと通り抜けることができる。

シンプルな寝室はベッドのヘッドボード側の壁をふかしており、その上は物を置けるライニング。壁にはグレーのセメント板を配し、表情をつくり出している。

寝室の隣にあるのは床を2段下げたご主人の書斎で、仕事や勉強などに使っている。

「狭いところが好きなので、この書斎は落ち着いて過ごせますね」とご主人。

その上にはロフトが設けられているが、そこはご主人の予備の寝室としてつくられた場所。

「以前はお酒を飲んで夜遅くに帰ってくることも多く、『お酒臭い』と家族からクレームを受けていたので(笑)。飲んで帰る日や、翌朝早く起きなければならない時のための就寝スペースにしています」。

そこから洗面スペースを通り、玄関ホールへと一周して戻れる間取りになっている。

1階も2階も行き止まりがない回遊動線になっているため、家の中の行き来がスムーズで、面積以上の広がりも感じられる。

「一つの空間において、いつも同じ場所に居るのではなく、気分に合わせていろいろな場面を過ごせるような家にしたいと考えていて、それを飯塚さんに実現して頂きました。それで今、バルコニーで過ごしたり、ソファで過ごしたり、キッチン横の少し高い位置で過ごしたりと、いろいろな場所での時間を楽しんでいます」とご主人。

最後に、この家に住んで変化したことは?と聞くと、

「この家に住み始めてから、妻と子どもたちと一緒に過ごす時間が増えましたね。料理をするようになりましたし、以前よりも掃除や洗濯など家のことをするようになりました」(ご主人)。

快適で居心地のいい住まいが、仕事で外に出ていることが多かったご主人を引き付け、充実した家族の時間をつくり出している。


S邸

三条市
延床面積 214.68㎡(64.93坪)

竣工年月 2020年4月

設計 株式会社イイヅカカズキ建築事務所
文/Daily Lives Niigata 鈴木亮平