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道の駅 庭園の郷 保内をリニューアル。子ども心くすぐる、遊べる建築が登場

※本記事は住宅情報WEBマガジン Daily Lives Niigata による取材記事です。


道の駅 庭園の郷 保内をリニューアル。子ども心くすぐる、遊べる建築が登場

重点「道の駅」に選定。子育て世代が使いやすい施設を目指す

三条市保内地区にある「道の駅 庭園の郷 保内」は、2016年春にオープンした道の駅。園芸がさかんな保内という土地柄、広大な園内には庭園や植木等見本園が広がっており、さまざまな木や植物に触れられるのが特徴だ。

ところで、そもそも道の駅とは何なのか?道の駅の公式ホームページでは下記のように説明されている。

「道の駅」は、安全で快適に道路を利用するための道路交通環境の提供、地域のにぎわい創出を目的とした施設で、「地域とともにつくる個性豊かなにぎわいの場」を基本コンセプトにしています。

また、「道の駅」は3つの機能を備えており、24時間無料で利用できる駐車場、トイレなどの「休憩機能」、道路情報、観光情報、緊急医療情報などの「情報提供機能」、文化教養施設、観光レクリエーション施設などの地域振興施設で地域と交流を図る「地域連携機能」があります。

駅ごとに地方の特色や個性を表現し、文化などの情報発信や様々なイベントを開催することで利用者が楽しめるサービスも提供しています。(後略)

引用:道の駅公式ホームページ

つまり、トイレ休憩や食事・仮眠を取るためだけの施設ではなく、地域の特性を生かしたレクリエーションや交流の拠点となっている点が特徴で、現在全国に1,187駅(2021年3月時)が設けられているという。

道の駅 庭園の郷 保内の中心となる建物は、植木等見本園と駐車場の間にゆったりと佇む庭園生活館。

大空間が広がる開放的な建物内には、地元の特産品の売り場や、カフェ、イベントスペースが備えられている。

引用:道の駅 庭園の郷 保内

2019年には、地域活性化の拠点となる優れた企画性が認められ、重点「道の駅」に選定された。その際に定められた方針が、地域の特性を活かしながら、子育て世代を応援すること。

その取り組みの一環として、三条市が庭園生活館内の一角をリニューアルすることになり、現場の担当者としてプロジェクトに携わったのが、道の駅 庭園の郷 保内の駅長・加藤はと子さんだ。

「これまで建物内には子育て世代がゆっくり過ごせる場所がなかったんです。緑に触れながら子どもの情緒を育める場を建物内に設けることが決まり、建物奥にあるカフェの前のスペースを使って新しい場をつくることになりました」と加藤さん。

設計は三条市の施設の設計に関わった実績から、イイヅカカズキ建築事務所・飯塚一樹さんが起用され、リニューアルプロジェクトがスタートした。

「子どもたちが自然に触れながら遊べることや、親がその様子を見守りながらくつろげることに加え、授乳室の新設や、車椅子でも使いやすいテーブル、ワークショップや展示スペースの確保など、いろいろな要望がありました。そして、そこを『面白い場にしてほしい』という要望に対してどのような提案できるかがポイントになりました」(飯塚さん)。

小さな町のような空間をつくる

要望を翻訳するようにして具現化したのが、こちらの空間。

↓こちらがリニューアル前の様子。

リニューアル前はがらんとした空間で、来館者の滞在時間が短かった。

広いスペースに構造物が散りばめられ、島を巡るように遊びまわったり休んだりできる。さらに、余白を埋めるように置かれている巨大な植物は、プラントハンターの異名を持つ、そら植物園の代表・西畠清順さんが世界各国から収集したもの。それらが建築物と一体になり、空間を構成している。

「今回リニューアル工事を行ったのは、駐車場側の入口から入って庭園側へと通り抜けられる場所です。そこに小道をつくり、周りに建物が点在する小さな町のような空間をつくれないかと考えました。そこでベンチに腰を掛けたり、靴を脱いで人工芝に座ってみたり、子育て世代を中心に、さまざまな人が来てくつろげる場を目指しました」(飯塚さん)。

アイキャッチにもなる「山の家」

建物内に入った時に、遠くからでも目に入るのが「山の家」と名付けられた構造物。

「これまでは、奥まった場所にあるカフェの存在に気付かずに出ていく人も多かったため、『カフェへと人を誘導できるようにアイキャッチになるものが欲しい』と加藤さんから相談を受けていました。そこで、入口付近からでも目に付くように、高さのある建物をと考えて、本棚を積み重ねたジャングルジムのような遊具を提案しました」と飯塚さん。

スプルースの三層パネルの箱を積み重ねた構造体は、2016年に東京・青海で行われた建築イベント「HOUSE VISION」のパビリオンから着想を得たという。

「元々ここには園芸関係の本もたくさん置かれていましたので、それらを収納できる本棚を兼ねたものにしました。また、裏側には苗木や花の展示販売で使うパレットを収納できるようにするなど、いくつもの機能を組み合わせています。ただ登るだけでなく、腰を掛けて使うこともイメージしました」(飯塚さん)。

その設計のベースには、飯塚さんが大事にしている「空間の兼用」という考え方がある。

「山の家ができたことで人の流れが変わり、こちら側へ来る人が増えました。子どもたちだけでなく、大人も面白がってよく登っています。ここに座ってガーデニングの本を読まれる方もいらっしゃいますよ」と加藤さん。

一番上まで上がると、高窓から近くの里山の景色を眺めることもできる。

乳児が安全に遊べる「池のエリア」

その手前にあるのが「池のエリア」。

円柱の周りを囲むように円形ベンチが配され、その中は柔らかいマットが敷かれているため、ハイハイで動き回る赤ちゃんや小さな子どもが安全に遊べる。

「このベンチに座れば、山の家で遊ぶ上の子を見ながら、小さな下の子をすぐそばで遊ばせられますし、飲み物を飲みながら過ごせるようにテーブルを設けています。車いすを横付けして使うこともできますよ」(飯塚さん)。

絵本やおもちゃを入れられるように、ベンチの下を空洞にしているのもポイントだ。

リゾートの一角を切り取ったような「風の家」

西洋の庭園で見られるガゼボを彷彿させる「風の家」。

2.1m四方の空間は、木のフレームに天井から吊られた寒冷紗(かんれいしゃ)と呼ばれる園芸用の布が掛けられている。

「個室のようなスペースもつくりたいと考えましたが、完全に仕切るのではなく、半透明な布でなんとなく区切るようにしました。寒冷紗を立体で織れる工場は少ないのですが、ガーゼ布などの繊維製品のオーダーメイドを得意とする燕市の吉田織物さんに発注して作ってもらったんです。風で寒冷紗がヒラヒラと揺れる感じもいいですよ」(飯塚さん)。

実際に中に入ってみると、周囲の音は聞こえるものの、テントの中にいるような心地よい籠もり感があり落ち着いて過ごすことができた。

住宅設計において、家族が互いの気配を感じられるように曖昧に仕切るという飯塚さんの考えが、この「風の家」に現れている。

授乳&オムツ替えができる「木の家」

一方「風の家」とは対照的に、しっかりと壁に囲われているのが「木の家」だ。

三角屋根の小屋は幅1,800mm×奥行1,200mmと、約1.3畳の広さの授乳室。

「今新しい道の駅ではマストになっている授乳室ですが、庭園の郷 保内ではこれまで授乳室がなかったため、今回のリニューアルで新設することになりました。授乳室はトイレのそばに置かれることが多いですが、赤ちゃんにとっては食事の場ですし、年上の兄弟が遊んでいるところからお母さんが離れなくてもいいように、授乳室をこの場所に置くことを提案しました」と加藤さん。

山の家と同じスプルースの三層パネルでつくられた建物内は、木の温もりに包まれる優しい空間。光を採り込めるように天井はくりぬかれており、目隠しの寒冷紗が垂れ下がっている。

ドアハンドルの金具は、三条市の鍛冶職人・内山立哉さんが手打ちをしてつくり上げた一点もの。

飯塚さんは地元の職人技を建築に採り入れることを「地財地建」と呼び実践をしているが、このドアハンドルがそれにあたる。

また、人工芝の上にはベンチやテーブルが置かれているが、それらは三条市内にあるJR信越本線・帯織駅に2020年にオープンしたものづくりの交流拠点施設「EkiLab(えきらぼ) 帯織」にて作ったもの。

金属フレームとスプルースの三層パネルを組み合わせたデザインで、ここにも、ものづくりの街・燕三条の技術が使われている。

リニューアルを経て、来館者数・カフェ売上がアップ

今回のプロジェクトにおいては、現地にて3Dパースの動画をプロジェクターで写しながら、関係者とイメージ共有をしていったという。

「ワクワクを共有したいという思いから動画を用いることが多いですが、イメージが伝わりやすくなるため、プレゼンをしてから採用が決まるまでのスピードが速かったですね」(飯塚さん)。

「4月1日にリニューアルオープンしましたが、4月の来館者数・カフェの利用者数は2019年対比で1.6倍になりました。インスタを見て来た人も増えましたし、人工芝やベンチに座ってくつろげるようになったので、来館者の滞在時間が伸びていますね。人工芝には保内緑の里管理組合の長谷川組合長が作った大きなオセロが置かれていますが、おじいちゃんおばあちゃん同士や、おじいちゃんがお孫さんと一緒に楽しんでいる姿をよく見かけます。池のエリアのベンチで飲み物を飲んだり、ソフトクリームを食べたりする方も多く、想定通りの使われ方がされていますね。『子どもがなかなか帰りたがらなくて困る』という声も聞くようになりました(笑)」と加藤さん。

「3Dパースのイメージ通りの空間ができ上がりました。木を使い、余白をバランスよく入れたことで植物とのマッチングもうまくいったように思います。みなさんに楽しみながら使っていただけてうれしいですね」(飯塚さん)。

子育て世代のための空間だからといってカラフルな遊具を置くのではなく、園芸がさかんな保内という地域性に合った場の在り方が何かを、飯塚さんは丁寧に突き詰めていった。

そうしてでき上がったのが、小さな木の建築物を組み合わせてつくった小さな町。そこには、子どもだけでなく幅広い世代が交差する。

道の駅 庭園の郷 保内では、今後庭園のリニューアルを計画しており、植育・花育をテーマにしたキッズガーデンがつくられる予定なのだそう。

保内地区の観光や教育、レクリエーションの拠点として、ますます地域内外の人に求められる場へと変化をしている真っ最中だ。


道の駅 庭園の郷 保内
新潟県三条市下保内4035
TEL:0256-38-7276
営業時間:9:00~18:00(庭園生活館)
定休日:12月31日~1月2日、ほか臨時休館あり
道の駅 庭園の郷 保内インスタグラム

設計/株式会社イイヅカカズキ建築事務所
写真・文/Daily Lives Niigata 鈴木亮平