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WITHDESIGN×IKAでコラボ。福岡県大牟田市にホテルライクなモデルハウスが完成

※本記事は住宅情報WEBマガジン Daily Lives Niigata による取材記事です。


2016年、熊本の工務店と新潟の設計事務所が協働開始

熊本県荒尾市に拠点を構えるWITH DESIGN。母体は1976年に設立された株式会社ワカヒサ工務店で、2017年より3代目の北岡大典さんが代表を務めている。

2014年に株式会社ワカヒサ工務店は、建築家と工務店が協働して家づくりを行うネットワーク「R+house(アールプラスハウス)」に加盟。その際に、WITH DESIGN事業部を立ち上げた。WITH DESIGNという名前には、「建築家と一緒に、お客様と一緒に、一軒一軒を大事につくっていく」という想いが込められている。

営業スタッフは持たず、広告宣伝費を抑え、自社大工による施工で品質を担保しながら外注費を抑える。その一方、R+houseを通して全国各地の設計のプロと連携をすることで、住まいの美しさや合理性を高めるというバランスを大事にしている。

新潟県三条市のイイヅカカズキ建築事務所(IKA)の飯塚一樹さんと仕事をするようになったのも、R+houseがきっかけだという。

「初めて飯塚さんに会ったのは2016年の夏でした。R+houseの本部のアテンドで飯塚さんを紹介して頂きました。家づくりを一緒にやっていく中で意気投合するようになって、飯塚さんが熊本に来るのが3度目くらいの時に一緒に温泉に泊まりに行ったりして、いろんな話をするようになりました」と北岡さん。

WITH DESIGN(株式会社ワカヒサ工務店)代表・北岡大典さん

「北岡さんが翌年の4月に行われるミラノサローネを、工務店や建築家のグループで見に行く計画を立てていて、『飯塚さんも一緒に行かない?』と平山温泉の露天風呂で誘われましたね(笑)。それで2017年の春にみんなでイタリア旅行に行ったりもしました」(飯塚さん)。

株式会社イイヅカカズキ建築事務所 代表・飯塚一樹さん

その後も縁があり、年間5~6棟のペースで一緒に家づくりを行うようになり、飯塚さんは月に1~2回程度熊本へ出張するようになったという。

「北岡さんはすごく気づかいをしてくれる人。お客さんに対してだけでなく、みんなに対してそうなんです。それが普段の仕事ぶりに現れています。お客さんとの打ち合わせでは、とにかくお客さんを楽しませますし、否定をしないのも北岡さんの特徴ですね」と飯塚さんは話す。

「お客さんの要望を全て実現しようとすると予算オーバーしてしまうこともありますが、喜んでもらいたいのでこちらの工数を工夫して予算内でできるように努力しています。…もちろん、何でもできるわけではないですよ(笑)。あと、飯塚さんとお客さんとの打ち合わせは3回と決まっていて、それは一つのイベントなんですよ。だからその時間はなるべく楽しいものにしたいんです」と北岡さん。

プロ同士が協働して真剣に家づくりを行っているが、打ち合わせでは少し気の抜けたリラックスムードを大事にしている。

大牟田市にWITH DESIGNのモデルハウスを計画

初めて二人が一緒に仕事をした日から4年が経過した2020年。WITH DESIGNのモデルハウスを建築するプロジェクトがスタートした。

「今後の戦略としてWITH DESIGNのスタンダードを表現する必要があると思い、モデルハウスを建てることにしました。計画した敷地は、向かいには大きな工場があり、近くにはショッピングセンターのゆめタウン大牟田があり、目の前の幹線道路は通勤渋滞や買い物渋滞が起こる場所でした。カーテンを開けた時に外から丸見えにならないようにリビングは2階にして、逆に外からよく見える場所にはらせん階段を配置。かつ、ホテルライクなインテリアにしたいと考えました。ただ見せるためのモデルハウスではなく、ゆくゆくは販売をするものですので、プライバシーが守れて快適に暮らせることも重視しています。それを飯塚さんに伝えて設計をしてもらったんです」(北岡さん)。

「R+houseとしてのモデルとなる建物なので、四角総2階ベースにしようというのが最初の方の打ち合わせで決まりました。そして、北岡さんが希望していたらせん階段をどのように外に向けて目立たせるかを考えましたね。昼間は窓に光が反射して見えにくいですが、夜になると照明によってらせん階段が浮かび上がるように位置を決めていったんです」(飯塚さん)。

「らせん階段がある場所は吹き抜けで、その吹き抜けの奥に2階リビングがあるんですよ。そのため、夜にカーテンを開けたままリビングに居ても、外からは見えにくいんです。窓の近くにあるペンダントライトはよく見えますので、外から見るとそこは目を引きますね」と飯塚さん。

上質感あふれる、シンプルなホテルテイストの1階

ホテルライクというコンセプトは、玄関から表現されている。

玄関の正面はタイル床のホールで、その余白のようなスペースはホテルのラウンジを彷彿させる。ミース・ファン・デル・ローエのバルセロナチェアが似合いそうなシンプルかつシックな空間だ。

「1階が特にホテルを意識したデザインになっていて、玄関やホールの他に、水回りと寝室、ウォークインクローゼットが配されていますが、廊下や水回りなどの床は全てタイルで仕上げています」(飯塚さん)。

壁一面に石のような質感のタイルが張られた洗面スペースは、トイレと一体に設計。それも海外のホテルのような趣きを感じさせる。洗濯機が置かれたランドリースペースを分けることで、洗面スペースから生活感を排除しているのも特徴だ。

1階の奥にある寝室はカーペット敷き。

天井はレッドシダーで仕上げられているが、そのまま外のテラスへと空間が広がっていくようにデザインされている。

「掃き出し窓を開けると3畳のテラスに出られますが、そこに椅子を置いて夜寝る前にお酒を飲んだり…という使い方をイメージしています。土地が不整形で角が広がっているんですが、そこにつくられた小さな庭を眺められるようになっています」(飯塚さん)。

寝室のTVボードの裏側はウォークインクローゼットで、寝室と完全に仕切るのではなく天井近くでつながるようにしている。なるべく仕切りを設けずに温度のバリアフリーを目指す飯塚さんの設計思想は、このようなちょっとした部分にも現れている。

ちなみに玄関と寝室のドア以外の建具を全て引き戸にしているのは、建具を開け放した時の美しさを重視しているから。洗面スペースやランドリースペースなどは、使用時以外は引き戸を開放しておくことで空気の循環を促すことができる。

キッチンを中心に、仕切りのない空間が広がる2階

らせん階段を上がって2階にたどり着くと、そこにはトイレ以外に建具がない開放的な空間が広がる。

「僕は“ONE-BOX FOR ONE FAMILY.”というコンセプトを掲げていますが、ここはまさにONE-BOXの空間ですね。キッチンから見える風景も大事にしていますが、キッチンから外の景色やリビング、ダイニング、子ども部屋までを見えるようにしています」と飯塚さん。

アイランド型のキッチンはその周りをぐるりと回遊できるのもポイントだ。キッチン側は天井高を2,200mmに抑え、木毛セメント板で仕上げることでメリハリを生みだしている。

キッチンの正面とサイドはモールテックスで仕上げ、背後の壁はサブウェイタイルを配すなど、全体的にモノトーンでシンプルにまとめられているのも特徴だ。

明るいリビングとは対照的にダイニングは少し籠もり感のある空間。

そこには、イサム・ノグチのサイクロンテーブルとイームズのシェルチェアが置かれ、天井にはルイス・ポールセンのph5が吊り下げられている。

キッチンの奥はクローゼットとトイレ。

7.5畳のフリースペースとなっている場所を2つの子ども部屋にした場合、1部屋が3.75畳となってしまうため、収納をこちらに確保している。

LDKのそばにあるクローゼットは、服を収納するだけでなくさまざまな用途に使えそうだ。

ディテールの美しさにこだわる

きれいに910mmピッチのモジュールに従った間崩れのない建物だが、施工難易度は決して低くはなかったという。

「2階部分がL字にオーバーハングしていますので、そこの納まりや熱橋の処理などは大変でしたね」と北岡さん。

「2月下旬に棟上げして、その後1カ月半ほどで完成しましたが、施工のスピードが速いのに驚かされました。しかも納まりがすごききれいなんですよ」と飯塚さんは話す。

ジョリパッドという塗り壁で仕上げられた外観は余計な線のないすっきりとしたデザイン。サッシと外壁を同じ黒色にすることで、サッシの枠が見えないようにする工夫も見られる。「自動車のデザインでいう“ブラックアウト”という考え方ですね。それと、1・2階ともに南側の窓が奥まった場所にあるのは、夏の強い日差しを遮るためでもあるんです」(飯塚さん)。

四角い箱を切り欠いたポーチ部分へと導くようなフォルムに、天井と開口部のラインをそろえる繊細さなどが図面通りに美しく施工されている。

「ベランダの笠木を薄く仕上げたりとか、うちはディテールをきれいに施工するのも得意で、なかなか普通の人が気づかないようなところの美しさにもこだわっています。元々僕は現場畑出身なので、ディテールが好きなんですよ。R+houseで飯塚さんはじめ外部の優れた建築士の設計力と、自社の施工力を組み合わせられるのがWITH DESIGNの強みですね。耐震性能は最高等級の3をクリアしていますが、これは当社の標準です」(北岡さん)。

阿吽(あうん)の呼吸で進めた建築プロジェクト

「今回のモデルハウス計画は、いつもの仕事と同様に最初から最後まで楽しかったですね。新しい取り組みとしては、動画を使ったプレゼンも行いました」(飯塚さん)。

 「仕事でもプライベートでも仲のいい飯塚さんだから電話でのやり取りもちょっとしたニュアンスがすぐに伝わるのでスムーズでしたね。電話で『どう思う?』と聞くと『いいんじゃない』と返事があり、『分かった!じゃーねー!』で終わる、みたいな。施工で迷うことがあってもすぐに解決できました」(北岡さん)。

45年の歴史を持つ株式会社ワカヒサ工務店の住宅事業部WITH DESIGNと、“ONE-BOX FOR ONE FAMILY.”をコンセプトに掲げる株式会社イイヅカカズキ建築事務所。大牟田モデルハウスは、この2社のスキルと感性が融合してつくられた。

上質な素材感や明るさ、風通しの良さ、シンプルで美しいディテールなどを体感するだけでなく、随所に隠された設計意図を読み解けば一層深くモデルハウスの魅力を感じられるはず。

北岡さんの今後の目標は、店舗などの非住宅を飯塚さんとつくり上げることだという。「何か地域のシンボルとなるようなものを飯塚さんと一緒につくりたいですね」。

地域に根を張る工務店と、自らの知見を使って場所に捉われずに仕事をする設計事務所。強い信頼関係でつながる2者が協働することで、付加価値の高い仕事を生み出せる。

それをぜひこの大牟田モデルハウスで体感してみてはいかがだろうか。


WITH DESIGN 大牟田モデルハウス

延床面積 109.30㎡(33.05坪)、1階 49.68㎡(15.02坪)、2階59.62 ㎡(18.03坪)
敷地面積 181.51㎡(54.90坪)
※見学申し込みはこちらから。

施工/WITH DESIGN(株式会社ワカヒサ工務店)
設計/株式会社イイヅカカズキ建築事務所

文/Daily Lives Niigata 鈴木亮平